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皮革でのものづくりをはじめた経緯を少し書いてみようかと思います。

とても単純なことですが...

自分自身がまだ高校生だった頃

革の財布に興味を持ち出した頃

自分にとって革の小物はとても高価なもので簡単に買えるようなものではありませんでした。

そんなとき姉が、ヌメ革の財布をプレゼントしてくれて

それはもう嬉しくて嬉しくて。

付随した革小物がどんどんほしくなってしまう一方。

自分にはそういったものを買うお金はあまりなかったけれど

家にはそれなりの工具が一通りあったし

何かをつくることは小さい頃から好きだったので

革のハギレを入手して、ベルトホルダーをつくってみました。

知っていたのは、革は固いので、あらかじめ穴をあけてから縫うということ。

当時の自分にはそれで十分で

家にあった木工用のキリでぶすぶす穴をあけて、糸に針を付けてとりあえず縫う。

ステッチが綺麗かどうかなんて考えもせず、縫い上がる瞬間は最高な気分でした。

まあ、もちろん出来上がりも今思うと酷いものでしたが。

ただそれでも当時は嬉しくて嬉しくて、制服のベルトに通してよく使っていた記憶があります。

それからはもうつくることの楽しさを知ってしまったので、

その対象は、腰バッグだったり、バングルだったり、持っているのに財布をつくってみたり。

その頃から、道具のことや仕上げ方など気にするようになっていてすこしづつ道具を揃えて行きました。

そんな中で仲の良い友達が財布をつくってほしいと言ってくれて

へたくそながらも一丁前に革職人の気分でつくっていました。

そこでつくることの楽しみの次に覚えたことが

人の為につくって喜んでもらえるということ。

つくっている最中なんかは、これはもうひとに渡したくないなとか思ってしまうんです。

一生懸命つくっているから、そこでもうすでに愛着が湧いてしまって。

ただつくったものを渡して

喜んでもらえて

会うたびに使っていてくれているのをみると、本当嬉しくて。

それからすこしづつ人に頼まれてつくるようになりました。

そんな中

大学では建築を学んでおり、三年生にもなると、就職活動が始まりました。

その頃、自分の身体の中では、もはや革職人になりたいという願望が充満しておりました。

ただ、それでお金を稼ぐということに対して臆病になっていた部分が強く

趣味でもいいから革を楽しめればいいのではないかと

自分を必死に押し殺しながら

周囲の流れに少し遅れ気味でしたが就職活動を行い、建設現場の現場監督となりました。

ただ、もう我慢できなくて、

自分が現場で働いている最中にも、革を生業にしている方々とどんどん差が開いて行くと思うと

悔しくて、我慢できなくて。

また現場監督として目にしたものは

ひとつのものがつくられて、つかい手に渡るまでに、踏む段階の多さ。

物件を企画するデベロッパー

施行を請負うゼネコン

ゼネコンによって下請けとして集められる様々な業種の会社

さらに孫請け、場合によっては孫孫請け。

建物のような大きなものなのでひとりでつくることは難しく当たり前のような構図ですが、

いいものをつくりたいという気持ちだったり

そこに含まれる様々な思想は

この構図の中ではどうも伝わらないような気がしてなりませんでした。

まして、自分の思い描く革職人の世界とは、全く異質に思えました。

自分の頭で考えて

自分の手を動かして

ひとつのものをつくりあげる。

使ってくれる人に直接的に渡す、喜んでもらえる。

そして本当は自分が一番嬉しい。

すごく単純でわかりやすくて、自分にはこれしかないなと思いました。

それから、仕事として、自分自身で勝負してみようと革職人として歩み出しました。

このような経緯ではじまった革職人としての道ですが

正直辛い部分もありますが

大きく感じることは

人の温かさだったり、ありがたみを感じる機会に溢れているということです。

手づくりという行為自体がその象徴のような気もします。

とにかく自分の手から生まれたもので喜んでもらいたい。

少しでも共感していただければ幸いです。

そのためにもそれに相応しいものづくりを今後ともつづけていく限りです。

長くなってしまいましたが、こんな私と作品たちをどうぞよろしくお願い致します。

 

【製法の紹介】

- 手縫い -

縫製は全て手縫いにて行っております。

革は布のようにそのまま針での手縫いができないため

先に革に縫うための穴をあけてから、手縫いしていきます。

手縫いは上糸と下糸の区別が無く、クロスしながらひとつの穴に二回糸が通ります。

たとえ片方の糸が切れてしまっても、もう片方の糸には影響がないため

ほつれていかず、縫い合わせた状態を保つことができます。

また手縫いでは、革の厚さ、重なり具合、部位に応じて糸の引く強さを微妙に加減していくので

乱れずに安定したステッチで縫い上げることができます。

縫製方法にも、革を様々な角度で突き合せた状態で縫う、合せ縫い

横に並べて突き合せた状態で縫う、掬い縫いといった手縫いならではの技法があり

手縫いを駆使することで様々な形の作品をつくり上げることができます。

 

- 切り目本磨き -

これは革の裁ち端(断面)の仕上げ方です。

よくコバと言われる部分です。

切り目本磨きの主な工程としては

ヤスリで番手を上げながら滑らかに整える。

布海苔(海藻)を煮とかしたものを染込ませ、木のヘラなどで磨く。

蜜蝋を溶かし込み、焼き締め処理をする。

このような工程を繰り返して仕上げていきます。

この方法は、革の特徴でもある、水分を含むことによって生じる可塑性

熱をかけることによって起こる熱変性

これらを上手に利用した技法であるといえます。